国立大学法人東京農工大学
研究推進部 研究支援課
TEL | 042-367-5944 |
---|---|
FAX | 042-367-5898 |
トップページ > テニュア取得教員の紹介 > 小瀬 亮太
職歴 | ・2011年04月~2011年10月:九州大学大学院農学研究院 学術研究員 |
---|---|
学歴 | ・静岡大学教育学部総合科学教育課程総合科学専攻 2005年卒業 |
受賞歴 | (2018.9現在) |
主な論文・解説 | (2018.9現在) |
有限な地球生態系の中で人類がより長く存続し続けるためには、資源の循環利用を進めることが重要です。すなわち、再生可能資源を原料として材料開発し、リサイクルすることにより使用原料の利用期間を長期化し、廃棄段階では環境負荷の小さいプロセスで地球の物質循環系へ還元されることが望まれます。
このようなプロセスを持つ材料の一つに「紙」があります。紙は、再生可能資源である樹木を原料としており、紙のリサイクル品である国内の古紙利用率は63%(2011年時 ※1)に達しています。さらにリサイクル困難になった古紙は固形燃料として利用され二酸化炭素となり地球の生態系に吸収されます。また、世界規模では年間で4億トンの紙・板紙が生産されています(※2)。
以上のように量的な規模が大きく、高い物質循環プロセスを有している紙をより汎用的に、より環境負荷の小さいプロセスの下で利用していくために、私は「古紙の新たなリサイクル方法」の開発を行っています。この方法におけるキーとなる素材はナノファイバー(NF)と呼ばれる繊維幅がナノスケールの極小繊維です。古紙はリサイクルを繰り返すと繊維長が短くなり硬質化するため、次第に紙の強度が低下します。そこで、このような劣化古紙からNFを調製し、このNFを用いた紙力の向上やNFの高密度集積化により高強度かつ耐水性を有する材料へと展開することを試みています。この劣化古紙由来NFの活用により古紙の利用期間の長期化、新規用途開発を通して、製紙産業の発展に資すると共に循環型社会に寄与することを目指し研究を行っています。
※1 公益財団法人 古紙再生促進センター HP
※2 「紙・板紙統計年報」 平成24年 日本製紙連合会
本学のテニュアトラック制度は、若手研究者に豊富な時間と資金を提供しています。また、メンター教員から研究の助言を受けることができる点も若手研究者にとっては非常に有益です。特に、魅力的なのは大学運営や授業などが極力免除され、自身の研究についてじっくりと考えられる時間を持てることです。審査基準を達成することができれば後のポストが確約されているということも、この贅沢な時間の質の向上に大きく寄与していることを感じています。このテニュアトラック期間中の贅沢な時間を存分に活用することにより自身の研究を深みのあるものにすると共に、社会に貢献できる研究に繋がる可能性が高まると感じています。
今人類は、資源の枯渇や地球温暖化など地球の生態系の有限性を無視することができない状況であり、持続可能社会、循環型社会という言葉が世に出て久しくなります。しかしながら、こうした有限性に起因する危機感を持ちつつも、今もなお私たちの消費活動は地球の生態系を乱し得る規模で展開されているように思われます。大学では、こうした社会的実情から一歩離れて俯瞰的に現在または未来に必要な科学技術の有り様を思索し、研究開発できる機関であると認識しています。この自覚の下、「紙」という素材を通じて持続可能な循環型社会を支えかつ現実に対応した材料とその生産廃棄プロセスの在り方を学生と共に研究していきたいと思います。